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バイオカフェレポート「世界の遺伝子組換え作物開発最前線」

 2015年2月6日、東京テクニカルカレッジ(TTC)でバイオカフェを開きました。お話は日本モンサント代表取締役 山根精一郎さんによる「世界の遺伝子組換え作物開発最前線」でした。
はじめに酒井絵美さん、高梨菖子さん、黒木彩香さんによるアイルランドの伝統楽器やクラリネットを使った演奏がありました。

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酒井絵美さん、高梨菖子さん、黒木彩香さんによる演奏 山根精一郎さんのお話

主なお話の内容

農業を考えよう
農業は食糧になる作物をつくる産業。
世界の農業の抱える問題は、2050年に90億人になる世界人口を養うために必要な2倍の食糧増産。人口は3割増でも肉食する人口が増えて、食料は飼料を含めて2倍必要になる。たとえば、1kgの牛肉を作るのにトウモロコシ10-15Kgが必要。
これまでは森を開墾して耕地面積を増やしてきたが、これ以上の農地は増やせないし、温暖化で作物の収量は落ちる。水不足も起っている。すべての人間活動から出る温室効果ガスの14%が農業由来。だからこれらの課題を克服するためには持続可能な農業の実現が必要。
 
収量増加のために
農業には3つの敵がある。雑草、害虫、病気と云う3つの敵を防がなくては増収できない。また、少ない水や肥料でも収穫量が確保出来たり、高栄養価の作物の開発も必要。
また、精密農法(土壌や気象データを分析し、収量を最大化する栽培法)なども求められる。
 
モンサントカンパニーの取り組み
持続可能な農業のために、2030年までにわが社は次の3つのことを公約としている。
① トウモロコシ、大豆、綿、菜種の収量が倍になる品種を提供する
② 水、肥料、エネルギー、土地など農業に必要な資源を3割削減する
③ その結果、農業生産者の収入を増やし、生活改善を図る
具体的には、雑草防除、害虫防除、病害防除、ストレス耐性、高収量の品種を従来育種やバイオテクノロジーで作り出す。また、化学農薬や生物農薬を開発する。さらに、精密農業の推進も行う。
 
遺伝子組換え作物の現状とベネフィット
1996年、遺伝子組換え作物の栽培は170万ha(日本の水田全部より広い)だった。18年経って100倍以上に増えた。これまでの農業技術でこんなに栽培面積が増えたものはない。
北・南米だけでなく、中国、インド、フィリピン、オーストラリア、アフリカの一部、ヨーロッパの一部で栽培され、輸入だけの国は日本など11カ国。
○雑草に対して
遺伝子組換え除草剤耐性ダイズの場合、1999~2000年、日本国内19か所でバイオ作物懇話会というグループの生産者が試験栽培をした。雑草が生えてきたとき、ラウンドアップで雑草だけが枯れる様子を見て、関心を持った農家も多かった。
除草剤耐性ダイズの場合、雑草をすきこむ必要がないので、不耕起栽培が可能となり、土壌流亡を防ぐ。また、不耕起栽培ではトラックターによる耕起がいらないのでトラックターが燃料を燃やす必要がない事による温室効果ガスの削減と土壌中にトラップされている温室効果ガスが出てこないので更に温室効果ガスの削減が行われる。米国では1haあたり30ドル、利益が増えた。土壌流亡が93%防止されるというメリットがあった。
○害虫に対して
フィリピンはトウモロコシの輸入国だったが、遺伝子組換え害虫抵抗性トウモロコシを導入して生産量が増え、輸出国になった。耕作面積を0.5haから5haに増やした農家もある。
フィリピンでは、3-5割の害虫被害がある。除草剤耐性トウモロコシでの収入も増加。フィリピンよりは害虫がいないアメリカでも7%の収量増につながっている。
○病気に対して
遺伝子組換えウイルス抵抗性パパイヤはハワイのパパイヤ産業を救った。現在、ハワイのパパイヤの8割は遺伝子組換えウイルス抵抗性の「レインボー」。レインボーのお陰で壊滅的な被害から立ち直った。
○乾燥に対して
遺伝子組換え乾燥耐性トウモロコシは、干ばつでない時には少ない水で栽培でき、干ばつの時は収量を確保できる。今は第二世代、第三世代を開発し、もっと乾燥した土地でも栽培出来る品種を作ろうとしている。
○遺伝子組換え作物の利点
遺伝子組換え作物の栽培で、世界では一年間に2兆円近い収入増(半分は発展途上国)。このために学校に行かれるようになった子どもたちもいる。
農薬使用量削減、生産性向上、温室効果ガスの削減(1,190万台の車が1年に排出する二酸化炭素と同じ量を減らせる。ちなみに東京の保有自動車台数は400万台)などのメリットが認められている。
 
遺伝子組換え作物のリスク管理
食品、飼料、環境影響の安全性が科学的に評価されたものしか商品化されていない。
申請者が提出したデータに対し、国際基準に基づいてつくられた国内基準に従って評価される。遺伝子組換え作物誕生から18年間、健康被害も環境影響も起こっていない。
例えばダイズは安全な食品でしょうか。大豆アレルギーの人には安全ではないし、生で食べるとトリプシンインヒビターがあるのでお腹をこわす。だから、大豆だから安全という考え方は採用できない。そこで、食品としての安全性はこれまで食べてきた作物と比べたときのリスクを評価する。
日本は1,600万tの組換え作物(トモロコシ、大豆、ナタネ、ワタ)を輸入し、利用している1,600万トンとはお米の1年間の生産量の倍である。
 
今、開発が進められている遺伝子組換え作物
○害虫抵抗性ナス
ナスはバングラディシュでは3番目に多く作られている作物。虫がつきやすく、一栽培シーズンに80回殺虫剤をまくこともある。害虫抵抗性ナスだと虫がいてもナスはきれい。2014年の2haの栽培試験では収量は30%増加し、殺虫剤使用は70%削減できた。1haあたり1,850ドルの収入増加に値する。
バングラディシュの成功を見て、インドやフィリピンも取り組んでいる。
○ビーンゴールドモザイクウイルス病抵抗性インゲン豆
従来育種で50年間、研究されてきたが、この病気に強い品種はできなかった。
ブラジル農牧研究公社が開発し、現在、試験栽培中。
○カンキツグリーニング病抵抗性オレンジ
この病気にかかったオレンジは実が小さくなるばかりか、根も小さくなってしまう。フロリダのオレンジ生産量が半分になってしまった。
テキサスA&M大学の研究者がホウレンソウの遺伝子を導入して病気抵抗性品種をつくっている。
○胴枯(どうがれ)病抵抗性クリ
アメリカのクリは胴枯病で絶滅の危機に瀕している。森林健康計画で小麦の遺伝子をいれて研究中。
○窒素有効利用トウモロコシ
植物の栄養となる窒素を畑にまいても作物に取り込まれるのは半分量。残りは土に残り、酸化すると二酸化窒素(二酸化炭素より温室効果が290倍高い気体)になったり、畑から流出すると水質を悪くする。正常に窒素がある畑だと収量が増え、窒素が欠乏している畑だと普通に収穫できる作物をモンサントが開発中で早く世に出したい。
○ステアリドン酸(オメガ3)を含むダイズ
青い魚に含まれているEPAやDHAなどオメガ3脂肪酸は心血管系の疾患の予防に役立つ。しかし、酸化しやすく、酸化すると悪臭を出すという困った点がある。
EPAの前駆体のステアリドン酸は酸化しにくく、酸化しても悪臭を出さないので、いろいろな食品に添加して利用できる。このステアリドン酸を産生するダイズをモンサントは開発しており、畑から獲れるオメガ3として、1-2年で世に出したい。
○ゴールデンライス
東南アジアには9,000万人のビタミンA不足の人がいる。不足すると夜盲症になり、さらに失明したり、免疫不全による死亡につながることもある。現在、毎年60万人の子どもが免疫不全で亡くなっている。
ビタミンAの前駆体であるカルテノイドを含む米(ゴールデンライス)の開発をフィリピンにある国際イネ研究所(IRRI)と民間企業が行っていて、商品化に向けた試験栽培が行われている。
毎日2杯くらいのお米を食べるとビタミンA不足が解消できる。
○花粉症治療米
日本で開発している。1日1合、このお米を食べると花粉症が治る。これまでに行われていたのは体質改善の注射や、対象療法だった。応援してあげてください。
 
まとめ
・食糧増産、農薬削減、環境保全、農業生産者の収入の増加に効果があったことが18年間に実証されている。
・発展途上国を含む世界中の国の生産者が栽培している。
・食品の安全性は確認されている。
・日本は1,600万トンの遺伝子組換え作物を輸入している。輸入国の間では穀物の取り合いが起こってきている。
遺伝子組換え作物に関する情報がほしい人は日本モンサントやバイテク情報普及会のサイトにアクセスしてください。英語のGMOアンサーズの一部を翻訳しています。

日本モンサント資料室

バイテク情報普及会


話し合い 
  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 不耕起栽培だと土壌から農薬や肥料が流亡しないということだったが、不耕起で土にとどまっているということは、除草剤をまかなくていいということでしょうか → 除草剤は土の中で分解されてなくなってしまうので、そのようなことにはなりません。
    • 「世界が食べられなくなる日」という映画を見た。セラリーニ(フランス)の研究で遺伝子組換え飼料を食べたマウスの7割にガンができた → この実験ではがんを発生しやすい種類の実験用ネズミを使っている。遺伝子組換えでない飼料を与えたネズミでもがんは発生しており、がんの発生に差があるとは言えない。このため食品安全委員会をはじめ世界の公的機関がこの実験の不備を指摘している。また、これが本当なら、18年の間に、遺伝子組換え飼料を与えられている乳牛、ニワトリにガンが発生しているはずだが、長く遺伝子組換え飼料を食べている家畜にはガンはできていない。
    • 乾燥耐性コムギの開発状況について教えてください。オーストラリアのコムギの収量が干ばつだとひどく低下しており、生産者は苦労しているだろう。組換えでも何でもいいから作ってくれという声があるそうだが → 乾燥耐性コムギの研究はオーストラリアの国立研究機関で取り組んでいるが難しいらしく、試験結果が公表されていない。眼に見える成果はまだのようだ。
    • 遺伝子組換えと非組換えの栽培の畑の区分けはどうやっているのか → 非組換えを作りたい生産者は周囲の人と話し合いながらやっている。5%未満の遺伝子組換え作物が意図せずに混入したときは表示しなくていいので、基準内に収まるように栽培している。
    • 途上国はどうして栽培するのだろうか → 遺伝子組換えの種子が少し高くても、種子の費用で赤字にならないだけの収益が上がっているということです。
    • 国によって種子の値段は違うのか → その国の経済の状況にあわせていると思う。
    • モンサントのビジネスモデルは → 新たな種子を開発したときに新たに生み出される価値を生産者と会社で分けている。会社だけが利益を得るのでなく、Win-Winになるようにしている。そうでなければ売上はのびなかったろうし、新しい品種開発に投資もできなかったと思う。
    • 生産者のメリットが強調されていたが、「いつでも食べられる」ということは消費者にもメリットだと思う → 確かに安定供給は消費者メリットである。昔日本は世界で一番、ダイズを輸入していた(250-300万トン)。その為、日本の注文にカナダやアメリカは答えてくれた。今は中国がダイズの輸入国になって7,000万トン近くを輸入している。それでも日本にダイズが回ってくるのは、ダイズの増収のおかげで、そういうことが理解されると良いと思う。
    • 従来育種でつくった作物の遺伝子は解明されていなくて、かえって危ないのではないかと思うが → 確かに遺伝子組換え作物だけが安全性評価をすることになっていて、従来育種と比べてどうかということについて私たちは常にフラストレーションを持っている。化学物質や放射線で突然変異を起こしても従来育種だから安全性審査は不要。しかし、今までやってきた育種の安全性確認をやりなおすのかという話になれば、それは現実的でない。突然変異の安全性確認ということは避けたい。
    • 「モンサントの不自然な食べ物」という映画を見た。そこで導入した遺伝子の入る場所は特定できないので、安全性は保証できないといわれていた → 遺伝子を導入したときにはどこに入ったかはわからない。遺伝子を入れてできた500-1,000の植物体の中からちゃんと入っていて、効果が高くて、食品として悪影響がないものが選抜され、どこに入っているかを調べて市場に出ている。

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    珍しいアイルランドの民族楽器「コンサーティーナ」を使った演奏