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TTCバイオカフェ「甘いだけではない糖鎖」

 2013年11月29日、東京テクニカルカレッジでバイオカフェを開きました。お話は理化学研究所システム糖鎖生物学研究グループ疾患糖鎖研究チーム 立田由里子さんによる「甘いだけではない糖(鎖)〜糖鎖は病気を見つけるサインとなるのか」でした。

初めに東京テクニカルカレッジ講師でもある松延康さんのギターで、冬の初めにふさわしく、三年坂、スカボロフェア、花などが演奏されました。

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松延康さんのギター演奏 三上校長先生のウエルカムスピーチ
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立田由里子さん 会場風景


お話のおもな内容

糖とは

砂糖とはブドウ糖と果糖がつながったもの。糖の役割には①エネルギー源としての糖分、②生体の構成成分としての糖(鎖)の二つがある。

糖にはグルコース、ガラトース、シアル酸など、いろいろな種類がある。糖はつながる性質があるが、つながり方が多様で多様な種類の糖鎖が存在することになる。このため、糖鎖は多様性に富み、その研究も複雑になる。

ヒトの体は60兆個の細胞からできていて、その細胞を拡大していくと、細胞表面はたくさんの糖鎖で覆われており、そのため糖鎖は「細胞の顔」とも言われます。

 
疾患と糖鎖の関係の研究

ある種のガン細胞と正常な細胞では、ついている糖鎖が異なることが知られている。その糖鎖の違いに着目し、がんマーカーとして利用されているものも多い。また、がん以外にも糖鎖と疾患の間に関係性が示唆されるものも多く、それらについて解明しようとしているのが私たちの研究室です。

例)COPD(肺気腫と慢性気管支炎の総称)

喫煙や大気汚染によって発症し、肺胞が壊れて、空気の吸い出しがうまくいかなくなる病気。肺胞がのびた風船のようになってしまう。

COPDには現在のところステロイドなどの対処療法しかないので、糖鎖をターゲットにした研究をしている。

 
糖鎖の研究成果の活用
例1 筋ジストロフィー

筋ジストロフィーの中には糖鎖異常で起こる種類がある。糖鎖の異常を早く発見して、発症や進行を遅らせたり、治療に役立てられないだろうか。

例2 メカニズムがわかったことで開発された薬(タミフル、リレンザ)

インフルエンザウイルスによる感染に糖鎖が関わっていることがわかったことで、開発された薬があります。それがタミフルです。
インフルエンザウイルスは、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)とウイルスRNAから成る単純な構造をしています。HAには15種類、NAには9種類の型があることが知られています。H5N1という表記はH(ヘマグルチニン)の型とN(ノイラミニダーゼ)の型を指し、ウイルスの種類を表わしています。
ヒトインフルエンザウイルスはヒトが持っているシアル酸という糖鎖を目印に感染します。これはHAがシアル酸に結合することにより起こります。細胞に侵入し増殖したインフルエンザウイルスは新たな細胞に侵入し感染を拡大させていきますが、この時、NAを使ってシアル酸との結合を切ることによってはじめて新たな細胞への感染が可能になります。タミフルはシアル酸に似せて作ってあるので、ウイルスは細胞のシアル酸と間違えてタミフルを切るうちに、結合部位となっているシアル酸を切り損ね、次の細胞に移れなくなるのです。実はタミフルはインフルエンザウイルスを殺す薬ではなく、新たな細胞への感染を抑え、ウイルスの増殖を抑える薬なのです。
 
例3 ABO式血液型を決めるのも糖鎖

ABO式血液型は赤血球の糖鎖の違いにより決まっています。よく性格と血液型の関係が話題になりますが、今のところ科学的な根拠はありません。ですが、ある種の感染症への感染しやすさとABO型が関係するかもしれないことが言われ始めています。

私の研究 糖鎖とアルツハイマー病

アルツハイマー=認知症と思われている方が多いのですが、アルツハイマー病は認知症中で5割強をしめる疾患です。主な症状としては、物忘れに代表されるような記憶障害などがあります。アルツハイマー病を発症する原因としてもっとも言われているのが、脳内のAβ(アミロイドベータたんぱく質)と呼ばれる小さなタンパク質の蓄積です。AβはAPP(アミロイドβ前駆体たんぱく質)が切断されることにより作られます。このAPPの切断に糖鎖が関与していることが考えられ、私はそれについて研究しています。


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活発な質問 クリスマスの飾り(玄関)
話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • RHのプラスマイナスはどこでしらべるの → 血液型の分類方法は200種類くらいあるそうだ。RHもABOも糖鎖です。血液型の多様性にも糖鎖がかかわっている。
    • 糖鎖は複雑で難しいというが、糖鎖の一粒、一粒はどうしてきまるの → まだわかっていない。無秩序に糖鎖がついているのではない。制御されているらしい。
    • 糖鎖をつなげる酵素の違い → 量によるときも、そうでないときもある
    • 腫瘍マーカーはマイナスでも安心できないと思った。腫瘍マーカーの意義はあるのか → マーカーとなる糖鎖を見つける試薬の精度を高める必要がある。複数のマーカーを組み合わせて使って精度を上げる。手術で切り開かないとわからないがんもあるが、マーカーによって切る前に予想できたり、術後の予後を調べられるという意味がある。
    • アルツハイマーは糖鎖がついてAPPが切られるということだったが、防止するには切られない糖鎖にするのか → Aβを切る酵素の研究、切る目印となる糖鎖の研究などがある。糖鎖を改変する事でAβをつくらせなくするという方法も考えられる。
    • 糖鎖の役割は → 今日は病気のマーカーとしての糖鎖の話ばかりでしたが、タンパク質の立体構造を保つための役割もある。
    • アルツにならないときはAβはどうなっているのか → APPにはAβを産生する経路とは別にもう一つ経路があり、そちらの経路をたどる場合はAβは作られない。
    • Aβに切られるときの目印の糖鎖はどうして着いてしまうのか → タンパク質につく糖鎖の糖転移酵素の発現量などが関係しているらしい。
    • 糖鎖のメカニズムがわかっているのはどのくらいか → ほんのひとにぎりだけ。筋ジストロフィーのように糖鎖との関係がわかった例はめずらしい。
    • 糖の複雑さが研究を難しくしているとわかった。糖転移酵素を網羅的にビジュアルで見る方法あるのか → 糖の種類が多く、それぞれのくっつき方まで網羅的にみるのは難しい。ある種の糖を識別してみることはできそう。
    • 分析機器のメーカーです。遺伝子の発現をルシフェラーゼでみている。リズムをもって増減する遺伝子を光でみる。細胞はばらばらだが、トータルでみるとシンクロしていたりする。培養細胞、組織では異なる。糖鎖が細胞間でのコミュニケーションでも役立っている場面も調べられる。