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ミニ講演会「遺伝子組換え農作物について」開催報告

 9月11日(木)16時からバイオ産業情報化コンソーシアム大会議室において、遺伝子組換えイネの研究者パメラ・ロナルド博士をお迎えしてミニ講演会を開きました(参加者は30余名)。


ロナルド博士のお話

GEOとGMO

ロナルド博士
ロナルド博士

 遺伝子工学的に改変された生物(GEO:Genetically engineered organisms)とは実験室での作業で行われる農業技術のひとつで、ひとつまたはいくつかの遺伝子変換を植物種間に限らず行うことができる技術です。これに対して遺伝子的に改変された生物(GMO:Genetically modified organisms)は遺伝子を変化させていることを意味しています。しかし、従来の品種改良でも遺伝子は変化していますから、私達の食べているすべての農作物をGMOと呼ぶこともできます。ですから、今、話題になっているバイオテクノロジーを利用してつくられた農作物のみをGMOと呼ぶのはふさわしくなく、GMOの方がよく用いられるのは残念です。GEOの安全性についての評価は個別で行うべきで、一律に評価しようとしてはいけません。

農薬

 害虫と作物の病気は農業生産者にとって最大の問題で、世界中の植物、繊維、飼料の3-4割が害虫類、線虫類、病気、雑草によって失われており、その損害は発展途上国で年間3,000億ドルに及びます。
 米国では、年間2万5千トンの農薬を使用し、多くの鳥の死亡、中毒被害、作業者のガン誘発などの問題があります。また、発展途上国の農薬散布作業者の写真を見ると、手袋もマスクもしておらず、安全な使用といいながら、健康への影響が心配です。発展途上国で使われる農薬使用量は世界の使用量の20%なのに、死者は半数をしめており、重度の農薬中毒は毎年300万件起こり、年間22万人が死亡しています。このような状況の中で農薬を減らすことが最重要です。
 ひとつの方法として遺伝子組換え農作物の利用が考えられます。たとえば、農薬に使われているBT菌を用いた殺虫性たんぱく質は1930年代以来、有機農家を含め広く使用されてきました。BT菌のつくるたんぱく質はヨーロッパアワノメイガ(トウモロコシ)、タバコガ(ワタ)、などの害虫に有効な防除効果があります。遺伝子組換え害虫耐性農作物の使用反対を求める理由のひとつとして、このような作物を大量に栽培することによって、害虫が耐性を持ち、栽培を続けられなくなるのではないかという意見があります。圃場で遺伝子組換えBt作物に抵抗性を持つ害虫はまだ確認されていませんが、コナガはBt散布剤に対する抵抗力を持つに至ったという報告があります。
 また、Bt菌を用いた農薬は土壌でよく分解し、長期試験は行われていませんが、ヒトへの安全性についても、人工胃液で速やかに分解することがわかっています。Btワタの導入後、米国と中国で7256万トンの殺虫剤使用が減ったそうです。

パパイヤリングスポットウィルス(PRSV)耐性遺伝子組換えパパイヤ

 PRSVはアブラムシによって伝染し、斑点ができる最も深刻な被害の出ているパパイヤのウィルス病です。パパイヤはブラジル、メキシコ、インド、東南アジア、ハワイで生産されており、1950年代から、ハワイで大被害が発生しました。今は遺伝子組換え技術によりきれいなパパイヤが売られています。ハワイ生まれの植物の免疫の研究者がコーネル大学で、PRSVを構成するたんぱく質の一部をつくる遺伝子を単離し、くるみの研究成果を利用してパパイヤの遺伝子組換えに応用して成功。1998年から遺伝子組換えパパイヤの種は栽培者に無料で提供されています。遺伝子組換えパパイヤには微量のウィルス性DNAを含んでいますが、ウィルスに侵された非組換えパパイヤにはウィルスのつくるたんぱく質を大量に含んでいます。
 遺伝子組換えパパイヤの生産量は非組換えパパイヤの20倍で、2003年、ハワイでは遺伝子組換えパパイヤは全体の9割を占めるに至りました。
 この結果、ハワイ全体でPRSVが減り、有機栽培業者に恩恵をもたらしました。日本ではもうすぐ圃場試験を行う予定です。まだ食品としての安全性審査は受けていません。

 安全性審査の手続きを経た遺伝子組換え食品及び添加物一覧

ゴールデンライス

ロナルド博士
ロナルド博士

 発展途上国の5歳未満の子供の33%(1億8200万人)が体重不足で、ビタミンA不足で50万人/年の子供が失明し、100-200万人が死亡しています。ゴールデンライスはカロチン(ビタミンAの前駆物質)などを含む遺伝子組換えイネで、この栄養素はアジア、アフリカ、中南米などの発展途上国の食事に不足しているものです。
 IRRI(国際イネ研究所)に2001年プロビタミンA強化の「ゴールデンライス」の種子ができ、その安全性の研究を進める国際的プロジェクトが進められています。シンジェンタ、モンサント、オリノバ、ゼネカモーゲンBV、バイエルAGはゴールデンライスの発明に関係のある技術のライセンスを発展途上国に無償で供与し、これらの国の栄養状況の改善に貢献しました。

GEOと有機栽培

 夫はオーガニックファーム(有機栽培を行う農場)を経営しているが、有機農業と有機農業で利用できる農薬が共存しうるためには、厳しい基準を設けてこれに従っていけばいいと思います。
 つまり有機と認定するための水準を設定すべき(EPAが従来作物に許容しているレベルの5%以下など)でしょう。たとえば、花粉飛散の最低許容基準設定などです。
 単一栽培は環境にリスクを生じると私は考えるので、GEOはむしろ生物の多様性を増すかもしれないと思います。

まとめ

 遺伝子組換え植物が広く利用されるようになるには、次のことが大事です。

  • 意思決定の透明性。
  • 責任の所在を明らかに。
  • 発展途上国の抱える問題を重視するためにNPOと連携する。
  • 発展途上国が知的財産を利用できること。
  • 研究開発効果が一般利用され、研究・開発の方向性と内容について一般からの意見や助言を受け入れること。

 GEOは次のようなことを可能にするひとつの方法であると思います。

  • 持続可能な農業を促進。
  • 安全な食料を届ける。
  • 環境にやさしい農家に利益をもたらす。
  • 農作業を安全にする。
  • 環境に配慮した農業を促進する(益虫、輪作、土壌肥沃化)。
  • 貧困や栄養不足に悩む人の生活を改善する。


質疑応答

質問1:日本では有機農法といったときにGEOを定義から除外すると考えている都道府県もあるが、こういう定義についてどう思うか。
回答:重要な質問。
 農薬を使っていないGEOという表示が必要になるかもしれない。これは主人の主張です。
 有機もひとつのアプローチ。GEOはひとつの手段で有機。

質問2:薬だとリスクベネフィットがはっきりしている、GEOでは消費者にとって直接的な利点が見える事例はあるか
回答:中国のワタでは25%の農薬の使用を減らすことができ、水の使用、益虫への被害も減らせる。農薬を使う作物は高価格になる。実際に使われている農薬の量を知る、農薬で死ぬ人の数を知る、そういう情報をつなげていくとGEOの利点が目に見えなくても理解できるはず。
 ウィルスに侵されていないパパイヤははっきり目で見てわかるし、ゴールデンライスは子どもたちの命を救う。

質問3:なぜ研究対象として稲を選んだのか。
回答:米は世界の半分の主食になっており、私と私の家族もお米が好き。
 茎など、植物全部を使うことができ、私をとらえる植物だった。
 麦やコーンと近くて、遺伝子が少なく、世代交代が早いので研究に向いている材料である。

質問4:米国のイネの生産は開始されているか。
回答:多くのアジアの地域で消費されているので、イネの研究開発への関心が高まっている。現在はフィリピンで開発している。除草剤耐性米の現在の安全審査の段階はよくわからないが、農家は関心を持っている。

質問5:ハワイに行く日本人はパパイヤが好きでよくお土産に買って帰ってくるが、これが遺伝子組換え技術の恩恵にあずかっていることを知らない。ハワイのGEOのパパイヤは表示してあるのか。その表示を見ることでGEOの宣伝にならないだろうか。
回答:9割が組換えパパイヤだが、組換えパパイヤだと表示する必要はないことになっている。GEOパパイヤのラベルをつけるのはよい広告になると思う。
 義姉も組換えパパイヤはきれいでおいしいといって食べている。
「組換え好きですか」と尋ねるといろいろな意見が出ますが、パパイヤの効果ははっきり目に見えるので、「パパイヤ好きですか」と尋ねるといいかもしれませんね。(笑)

質問6:有機栽培の作物と交雑しないために、どんなルールを作ればいいと思うか。
回答:花粉の飛散はゼロにはならないが距離をあけて栽培すること。有機農家の作物に組換えの花粉が入ってしまったときの損害賠償のルールができることが重要。

質問7:役所や科学者は科学的に安全だとわかっていることを説明しているがなかなか伝わらないことがある。その点、米国では市民の感情的な不安を国の規制への信頼が解決しているように思える。感情的な方への説明のヒントがあれば教えてほしい。
回答:
 1)パパイヤを食べさせて幸せにしてあげること。
 2)宗教、信条を持つ人への説明は難しい。
 3)質問には明快に答える、時間がかかるがやっていくしかない。
 4)何度も静かな態度で対応していく。

質問8:米国市民は遺伝子組換え農作物を受け入れているといわれているが、これは出回っている遺伝子組換え農作物のほとんどが飼料(とうもろこし、大豆)用であるので、市民が直接食べることがなく、そのために受け入れているのではないか。たとえば遺伝子組換え小麦をパンとして日々、市民が食べるようになると問題になるのではないか。
回答:米国人はGEOを受け入れていると思う。実際に米国人はスイートコーンやGEO大豆は食べている。85%の大豆は組換えだから、私自身、大豆を食べるときは組換えを食べているはず。  もしも組換え大豆の表示がある納豆があれば、もちろん私は食べます。


講演会を終えて

 質疑応答でも日本の市民の遺伝子組換え食品に対する不安、有機農業と相対する遺伝子組換え技術が話題になりました。とはいえ、ロナルド博士も漠とした日本の市民の不安を理解しにくいような印象でしたし、私達もまた「遺伝子組換えパパイヤを見たら納得するでしょう」という説明にはいまひとつ納得できなかったような気がします。しかし、こういう機会を重ねて遺伝子組換え食品について意見を交換していくことに意味があると思いました。







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