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第7回ヒトゲノムを使った実験教室「私たちのDNA」開催

 2012年9月29日 第7回ヒトゲノムを使った実験教室「私たちのDNA」を、東京農工大学遺伝実験施設、個人遺伝情報取扱協議会、バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社共催、東京テクニカルカレッジ協力により行いました。第6回まではアルコール代謝に関係するALDH2という遺伝子の分析を行っていましたが、今回はヒトに特徴な16番染色体のPV92部位でのAlu配列の有無を分析しました。
冒頭、同施設の丹生谷博教授より、「今日の実験は大学3年生くらいのレベルです。リラックスして実験を楽しんでください」と開会のことばありました。実験の概要説明の後、自分の個人遺伝情報を取り扱うことの意味、実験終了後は試料を塩酸で分解し、個人遺伝情報を保護することなどについて説明があり、同意書を作成しました。

Alu 配列とは

約300塩基DNAで、ヒトゲノムDNA上には100万以上のAlu配列のコピーがあります。今回、分析するのは16番染色体のPV92部位へのAlu配列挿入の個人による違い(多型)です。このAlu配列は安定であるので、親から子に伝えられるので、分析に使われます。AluとはDNAを特異的に切る酵素の名前で、Aluで切断される部位を持つことからAlu配列と呼びます。Alu配列の多型と人種は関係があることがわかっています。


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丹生谷博教授 開会のことば 微量の液体を扱う

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ピペッター練習 遠心分離機で細胞を集める
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「細胞、取れたかな?」 温めて酵素で細胞を壊す

実験2 Alu配列の分析

私たちはゲノムDNAの上にAlu配列を100万箇所くらい持っています。今回は安定なPV92部位のAlu配列を分析します。
細胞の採取
 食塩水でうがいをして口内の細胞を採取し、遠心分離器で集める。
試料の調製と目的配列の増幅
 PCRプレミックス溶液を加えて、プログラムインキュベーター(40回、温度を上下させて、目的の配列を増幅する装置)で約3時間PV92部位を増幅。


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TA(Teaching Assistant)7回目のベテラン須田亙さん TA2回目 立田由里子さん
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目的の部位を増幅するPCR 電気泳動を行うために、微量の試料を注ぎ入れる 電気泳動

 PCR増幅産物に色素を加えて、電気泳動を行う。泳動時間は約30分。

電気泳動結果の見方
 両親からAlu配列を受け継ぐとAlu(+)のバンドが太く、片親から受け継ぐとAlu(-)とAlu(+)に1本ずつ、両親が持っていなければAlu(-)のバンドが太くなる。

個人遺伝情報の保護
租粗抽出ゲノムDNAとPCR増幅産物に1モルの塩酸を加えて、DNAを分解する。分解することによって、この試料からDNAの分析が行えなくなるので、塩酸添加は個人遺伝情報保護を意味する。
バイオ・ラッド ラボラトリー㈱から指導に来られた
青柳 憲和博士
バイオ・ラッド ラボラトリー㈱から指導に来られた
廣中 克典博士
新人TA 中内 彩香さん 試料を温める装置の写真をとる参加者

ラボツアー
昼食後、丹生谷博教授による、研究施設のツアーがありました。先端研究を支える次世代シーケンサー、電子顕微鏡など珍しい器機を緊張して見学しました。
3日で30億文字読める 次世代シーケンサー
1億円 の顕微鏡がある

3階の窓から農園と馬場が見えました ガイドは丹生谷博教授


講義1「親子DNA鑑定」           小林裕次先生(個人遺伝取扱協議会)

DNAとは 私たちの細胞の中にDNAの物質を持っていて、その分子の並び方の違いが種や個体の違いになっている。ヒトとチンパンジーの違いは1.23%、ヒト個人の違いは0.1%。このDNAの違いを調べるのがDNA鑑定。
DNAの中のたんぱく質の構造をコードしているところを調べると、病気のことがわかる。DNA鑑定では、500-1000の中に1個くらいある1塩基の違いや同じ配列の繰り返しの回数やその長さをみる。繰り返し回数はコンピューターがみるので読み間違いがない。 
昔の鑑定では、DNA断片が電気泳動で流れた距離を、目印になる物資の泳動の距離と比べて、人の目が測っていた。足利事件のような誤認もこういうところから起ってしまった。今は、個人差は繰り返しの回数、縦列方反復配列型をみる。

鑑定
親から子に伝わる配列の繰り返し回数は確か。親から子に伝わるときに変異がおこることはあるが、人の一生の中では変異は起らないので親子・血縁鑑定および、個体識別・犯罪捜査に使える。
SNP(1塩基の違い)や短い塩基配列を使って鑑定を行う。長い塩基は直射日光でも分断されるので、サンプルの保存が悪いという欠点があるが、数塩基から数十塩基の繰り返しをSTR(short tandem repeat)またはマクロサテライトと呼ぶ。短い繰り返しなのDNAの保存がよく、ここを増幅したり、マーカー(放射性物質や蛍光物質の標識)をつけて調べる。
親子鑑定では、子どもには父由来、母由来のバンドが出てくる。例えば、父に30繰り返しが、母に13繰り返しがあり、子どもに30繰り返しと13繰り返しがあれば、親子だといえる。しかし、親から子に移行するときに突然変異が起ることがあり、今までに2箇所で突然変異が起った事例もあった。

染色体上のどこを調べるか
今は16箇所を調べる。それぞれにおける一致の状況から、個体識別を行ったり、両親の16箇所と子どもの16箇所の一致の状況から親子DNA鑑定を行う。
個体識別:同じ人かどうか、一卵性双生児か二卵生双生児かを調べる。
犯罪捜査等における個体識別DNA鑑定:フレッシュなDNAなら正確さが増す。

STR法の功罪
STRの利点は、正確で高い確率の鑑定結果が得られること。郵送資料による私的な鑑定サービスで用いられている。
本来は、裁判所の付託で行うべき親子鑑定だが、日本では私的な鑑定も行われており、意図しない親子鑑定に使われるのは問題である。
所管は、医療分野で扱う個人遺伝情報は厚生労働省、親子鑑定などは経済産業省となる。
母体血中の胎児由来のDNAを用いて親を特定できるようになり、出生前にレイプでできた子どもから親を特定できるようになった(米国)。

日本産婦人科学会
出生前に血液で行う父子判定に対して、産婦人科学会は協力しないとしている。今後、運用をどうするのかは検討課題。
ダウン症を妊婦の血液で出生前診断が2012年秋から日本のいくつかの医療施設で実施できるようになると新聞に掲載された。その後の関連学会の検討等により状況が変化しており、実施を検討しているが、日本産婦人科学会からの要請により、同学会が検査対象者やカウンセリング等に関する指針をまとめ、公開シンポジウム開催を経て臨床研究を実施することになった。
出生前診断で病気が予想でき、中絶が倍増したという報告(横浜市立大学で調査)もある。

検査する対象
染色体DNA:性別鑑定が行える。
Y染色体:STR法で孫が直系(男)かどうかがわかる。レイプの問題をどう扱うか、Y染色体には突然変異が多いことも踏まえ、使い方もよく考えなければならない。
ミトコンドリアDNA:1細胞にミトコンドリアは複数あるので、細胞数が少なくてもミトコンドリアDNAなら集められることがある。ミトコンドリアDNAは母系遺伝(受精後、父由来ミトコンドリアDNAは消化される)で直接、配列を読む。
毛髪:毛髪のDNAには変異がよくあるので、限界がある。
規制
種類が多く、複雑。親子鑑定をめぐる指針は「遺伝子検査倫理指針(衛生検査書協会)」、「個人遺伝情報の保護に関する法律(経済産業省)」など。

まとめ
親子鑑定は、インフォームドコンセントの取得、カウンセリングを伴って行われるべきで、試料郵送などはあり得ない。
遺伝子から顔がわかるようになってくると、モンタージュを遺留品のDNAから作れるようになるかもしれず、DNAの利用は拡大されていくのではないか。

小林裕次先生のお話 電気泳動ゲルを真剣に見つける


「ゲノムってなに」           大藤道衛先生(東京テクニカルカレッジ)

ゲノム・DNA・遺伝子
ミクロの決死圏という映画があり、医師や看護師が小さくなって患部に入って戦う話だった。今は、生物を分子レベルで解析するとき、ミクロの1000分の1のナノレベルで論じられるようになった。
DNAの上には遺伝子(酵素、筋肉などの成分であるたんぱく質の情報を持っているDNA配列。)とそうでない部分がある。遺伝子は飛び飛びに存在している。さらに、機能をもったRNAの情報をもつDNA部分も大事。
ゲノム(ジェノム)とは、染色体に乗っている遺伝子全部で、ジーン(遺伝子)とクロモゾーム(染色体)からできた造語。ゲノムは①親から子に情報を伝える、②遺伝情報を活用する、ふたつの働きがある。遺伝情報の活用とは、DNAから必要な部分をRNAに読み取り、できたRNAからたんぱく質をつくること。
DNAは4種類の物質からできている。それぞれに、塩基と呼ばれる部分があり、塩基は4種類あり、A、T、G、Cと呼ばれている ATGCの並び方はアミノ酸の並び方を意味しており、アミノ酸の並び方が決まるとたんぱく質が決まる。
ミトコンドリアDNAは母から子に、Y染色体DNAは父から息子に受け継がれるため先祖の解析にもちいられる。ヒトの染色体は、両親からもらうから2つずつある。私たちの体のゲノムDNAはどこからとっても同じ。細胞は分化するので、形や性質は異なる(皮膚、臓器、骨、目)が同じゲノムを持っている。形や性質の違いが起こるのは、細胞が分化する際、活用される遺伝子が異なるためである。

ゲノムから人類の歴史をさかのぼる
私たちのゲノムには両親の遺伝情報があり、遡っていくと、人類の起源にたどり着くはず
100万年前  アフリカに生まれたヒト(原人)が移動して行ったが、滅んでしまった。
10万年前  アフリカに残っていたヒトが世界に散った。日本には3-4万年前、陸続きで移動してきた。
人類移動中にDNA配列に変化が起り、これを変異という。多くの変異は修復されるが、1塩基の変異や1塩基の多型(SNP)が残ったままのものがある。
○鎌形赤血球:これはひとつの塩基の違いから、貧血(両親からもらうとひどくなる)にうなる。この変異を持つ人の分布とマラリアの分布が似ていた。鎌形赤血球は鎌形で流れにくく貧血になりやすいが血球の寿命が短いので、赤血球で生きるマラリア原虫が成虫になる前に赤血球が壊れてしまい、マラリアが発症しない。アフリカにはこの変異が残っているが、アメリカに住む黒人の方には変異が少ない。
○アルコール分解酵素をつくる遺伝子:SNP(1塩基の違いにより、アルコール分解酵素をつくる遺伝子が活性型のGタイプか不活性型のAタイプか)
GG型は、両親からGをもらった。GA型は片親からだけGをもらった。AA型は両親からGをもらえなかった。東洋人だけにAAがいる。このSNPが生じたのは3万年前と考えられる。
○乳糖不耐症:離乳期を越えると乳糖耐性がなくなるが、大人になっても牛乳でおなかをこわさない乳糖耐症の人がいる。これは乳糖を分解する酵素を作るかどうかをコントロールする遺伝子の多型に依存する。ミルクを飲んでおなかを壊す人とこわさない人がいる。酪農が盛んな欧州では乳糖耐性の人が多いが、中国と中米でも酪農を行うが不耐性がいる。耐性か不耐性かは、ミルクを飲む環境への順応よりも、たまたま、多型はランダムに残ったと考えるのがよさそうだ。鎌形赤血球は変異の自然選択の可能性があるが、ALDH2と乳糖不耐症は、遺伝子浮動の事例と考えられる。
色々な遺伝子多型の世界分布の最新情報がわかるサイトもある
ゲノムDNAの解析装置が急速に進歩している。1996年にもし1台の装置でヒトゲノム解読を行ったら5000年かかると思われていたが、今は3日でわかるようになった。装置の進歩により、ヒトの病気や体質と変異・多型の関係が明らかになってきている。さらにDNAを先端科学で調べた結果から人類の歴史をさぐることもできる。


参加者へのお土産 標準的なゲルの写真を入れた
カードケース(これに自分のゲルの写真を入れて持ち帰る)
朝から真っ暗になるまで、頑張りました!



話し合い

実験終了後、参加者全員で話し合いをしました。

  • ライフサイエンスは天文・工学と共通点が多いことがわかった。また参加したい
  • 工業高校教師。エレクトロニクスが花形だった時代に電気を専攻した。今はバイオが花形だと感じた。バイオを専攻している息子に負けないように、バイオについて学んでいきたい。また参加したい
  • 高校の生物教師だった。定年後、リハビリ専門学校で生物を教えている。鎌形赤血球と遺伝の話が印象的だった。
  • ブルーバックスで科学読み物を詠むような子ども時代。おもちゃメーカーで働いている。ゲノムは語源から知らないと理解できないと思う。その点、大藤先生のプレゼンは、ミクロの決死圏から始まったり、エニグマが出てきたり、エンターテインメント性が高く、感動した。
  • よく理解できた。
  • 3つの大きい満足。自分の手で実験ができたこと、大藤先生の講義、丁寧に回答してくれたTAの対応
  • 動物園でボランティアをしている。動物園では分類学の考え方で、遺伝子による分類ではない。ニホンザルの母系社会など、遺伝と関係していると思うが、専門用語が難しくとっつきにくかった。実験を通じて今日は理解できたので、簡略な説明をするのに役立つと思う。
  • 医学関係の編集の仕事で文字では見ていたが、今日はPCR、電気泳動を体感できて、今まで知っていたことばとつながった。予想以上に充実した内容で、参加費も安くてよかった。
  • 科学館ボランティアをしている。ゲノムの説明も少しする。今日はスタッフが優しく対応してくださり、ありがとう。
  • 製菓会社におり、遺伝子組換え原料に関心がある。実際に実験器具に触れ、実験できてよかった。TAさん、ありがとう。
  • 昔もピペットが高価だった。今日は高い危惧をたくさん使わせてもらった。海外にいたときに息子が発病し、遺伝の本を読んで独学。PCRで調べてもらいたい遺伝子があったが、個人ではキットを購入できなかった。今日はPCRができてよかった。
  • 2回目の参加。素人でもよくわかってよかった
  • 生物は高校以来。説明がわかりやすくてよかった
  • 保育士として、若い親と子に接する機会があり、親子鑑定の話は身近に感じた。科学とは無縁だが、DNAを抽出したり、得られた情報がどのように使われているかがわかってよかった。
  • 3回目の参加 繰り返してお話をうかがい、理解が深まったと思う。
  • 半導体の研究から今はバイオに研究を移した。今後もバイオを勉強したい。
  • 実験助手の皆さんのことば
  • 研究には答えがないものとあるものがあるが、今日のAlu配列の分析は答えがある方です。どのように話すとわかりやすいかを考えながら参加した。今日のような活動をして、研究者になりたいと思う人が増えたら嬉しい。
  • 参加者の興味の高さに驚いた。どんなところに興味を抱くのか、どんな説明をしたらいいのかを考えるヒントが得られた。
  • 初回から7回目のTA。大藤先生の教え子です。今は東大で微生物の研究をしている。毎年、この教室でTAをして、原点に戻れる気持ちがする。
  • TA2回目。理研で糖鎖とアルツハイマーの研究に従事している。参加者がどこに興味を持つのか、どのように理解するのかを学べてよかった。