2011年9月8日(木)、東京アメリカンセンターにおいて、米国大使館農務部主催標記セミナーが開かれました。1990年代、ハワイのパパイヤ産業に壊滅的な打撃を与えたパパイヤリングスポットウイルス(PRSV)に耐性を持たせた遺伝子組換えパパイヤの輸入が、12月1日より始まることに先立って開かれたものです。
ウイルス耐性遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」輸入に至るまでの長いプロセスにおいて、食の安全性も環境影響も十分に調べられ、表示の問題も解決した。今日から12月1日まで、レインボーをよく理解していただいて、売り出したい。このレインボーはウイルスの大打撃を受けたハワイのパパイヤ農園を救い、今では85%のパパイヤ農家が栽培し、ハワイの人たちはこのレインボーを享受している。今度は日本の方にこのおいしいパパイヤをお楽しみいただきたい。
ウィギンシ氏のよる開会 | ゴンザルベス博士の講演 |
はじめに
昨夜は米国大使館でレインボーをめぐる関係者を中心にお話した。今日は技術面について話す。しかし、科学は人から離れては語れません。
アブラムシが媒介するパパイヤリングスポットウイルス(PRSV)からパパイヤを救うことが目的。当時、ウイルスのコートタンパク質(CP)の一部を使うと、作物にウイルス抵抗性を持たせられることがわかっていた。
PRSVは、1945年、オアフ島に存在しており、50年代同島のパパイヤ産業に壊滅的打撃を与えた。パパイヤ栽培に水、日照が適しているハワイ島プナに伝播した。プナではハワイのパパイヤの9割が栽培されていた。
私は1978年にCPを導入してウイルス抵抗性を持つパパイヤを作ろうと研究を開始。プナから19マイル離れたヒロにはこのとき、すでにウイルスが迫っており、放っておいたら、プナの産業を壊滅させると思った。問題化する前に研究を始めたことがひとつの勝因だと考え、研究チームがスタートした。
タバコモザイクウイルスのコートたんぱく質をタバコやトマトに入れたら抵抗性ができたという論文が1985年に発表された。ユニークなアイディアで、これをやってみることになった。CPをPRSVから単離し、パパイヤの染色体に導入。このスライドは当時の遺伝子銃で、横に火薬が映っている。こんな原始的なやり方だった。6年後(1991年)に遺伝子組換えパパイヤが誕生し、ワクチンを接種したように、ウイルスをかけたら抵抗性を現した。
CPの発現で抵抗性ができると思っていたが、実際にはRNAの免疫防御システムによることが後からわかった。
そのうち、1992年にはウイルスがプナに侵入。1994年にはプナのパパイヤは壊滅状態になった。研究も大急ぎで、1992年、組織培養でクローニングして作った苗で、ほ場試験を開始し、レインボーパパイヤができた。ほ場試験は園芸家が協力してくれた。実際は、初め、サンセット(果肉が赤い)という栽培種に導入して、赤肉のサンアップができたが、黄色肉のパパイヤを生産者はほしがったので、CPをふたつ入れたサンアップとカポホ(黄色肉)を交配し、レインボーができた。
サンセットもカポホも長く栽培されてきた既知の栽培種。これを基に食品としての安全性審査を行った。1996〜7年、ほ場試験では、非組換えはウイルスで生育が悪かった。普通はここで終わるが、目的は論文を書くことよりも生産者の救済!
1997年、パパイヤ産業は打撃を受けていた。1996〜1998年に米国動植物検疫局に私が書類を作成して、申請し、審査をクリアした。具体的には1996年にFDAにCPを殺虫剤として登録し、1997年に実質的に従来のパパイヤ同等であることが認められた。
商業化にはモンサントなどのライセンスが必要だったが、パパイヤ産業協会はこれらの企業と交渉し、1998年にライセンスを取得した。1998年に、種を無料配布。
1999年〜2002年、健康なパパイヤがプナで育つようになり、パパイヤ産業界を破壊から救うことができた。
市場ではレインボーもカポホも同じ値段で売られた。
ウイルスは今もいて、非組換えパパイヤは被害にあっている。2011年現在、農家は組換えと非組換えの両方を栽培したりしているが、組換えのしめる割合は85%。ハワイは常に抵抗性が損なわれないようにいつも考え、工夫している。今のところ抵抗性が損なわれていない。
ハワイと日本の協力
ウイルス被害にあう前、ハワイのパパイアヤの25%が日本に輸出されていた(今は10%に落ち込んでいる)。プナでは日本向けの非組換えを栽培し、隣で組換えを栽培。両者は共存していた。
日本にもGMを輸出したい。ハワイは共存の成功例でもある。今は85%が組換えになり、共存プロトコールも作った。
日本に対しては、農水省、環境省に環境影響の書類を作成し申請した。厚生労働省には、食の安全性の書類を作成し、ハワイで追加実験をして情報交換をしてきた。
毒性、アレルギー、遺伝子挿入リスクなど、とても時間がかかった。ハワイには人的資源、資金が少なかったので、時間がかかってしまった。13年間で、12万ドルかかった。
青いまま収穫したパパイヤと樹状完熟したパパイヤの栄養素は日本についたときに違いがあるかなども調べた。レインボーは世界で最もよく調べられたパパイヤだといえる。
収穫したとき、日本についたときのあらゆる成分について組換えと非組換えを比較し、ゲノムの解析も行い、『ネイチャー』に全配列を解読して発表した。
2009年厚生労働省、2010農水省パブコメ終了。2010年に消費者庁でパブコメ終了。1998年の申請から2011年まで日本で時間がかかった。
カポホの時代はモノカルチャーだったが、今はカポホ、サンライズ、サンアップ、レインボーがあり、むしろ種類が増えた。入念に調べて何でも公開しているから見てほしい。
すべての人の協力なくして開発、生産はできなかった。ハワイパパイヤ協会をはじめいろいろな人が1990年から、ずっと協力してきた。
日米の規制当局との連携してきた。時間はかかったけれど、対立もしていない。日本の規制当局は厳しかったけれど公平だった。
Over The Rainbowのとおりになった。技術も大事だが、人が大事。レインボーが日本に来て 日本の消費者にどうやったら受容されるか。科学ではなく、マーケティングに期待している。
レインボーパパイヤの表示の告示をした。施行日の12月1日から輸入が出来るようになる。 日米の関係者にお世話になり、辛抱強く交渉してくださった米国大使館の皆さんに感謝する。この安全性審査は平成13年4月から始まった。パパイヤは輸入が認められた8つ目の作物。食品衛生法、JAS法に基づき、表示対象になるのは、GMパパイヤとその加工品。原材料の占める重量が3位までで5%以上のもの、従来のものと著しく異なるもの(高オレイン、高リシンは食品衛生法にないが評することになっている)は流通では表示して管理するルールになっている。分別できなかったら不分別に入れる。 製品から導入されたDNAやたんぱく質が検出出来ないもの(食用油、しょうゆ)においては、分別管理されていれば表示ができる。 分別管理とは、その証明書類の受け渡しが、関係者ごとに行われながら進むもの。関係者の分別流通の証明が重ねられていったものが最終製品になる。 パパイヤは現地から個々にシールをはって輸出される。現地の協力が大きい。シールがはがれたときには、組換えだけしか扱っていなかったら、組換えであることを示すシールをはる。組換えと非組換えを扱っていてシールがとれてわからなくなったら、不分別シールをはる。はがれていたり、間違ったシールを故意にはったら違反になる。 10年以上、多くの方の連携の上にレインボーが上陸してくることに感銘を受けている。
質疑応答(向かって右からゴンザルベス氏、今川氏、中野氏) |
中野栄子氏がコーディネーターを務めて話し合いが行われました。
- 丸ごと1個に不分別表示はありえないのではないか→シールがはがれた場合や、仕組み上わからないものが輸入されたら不分別という表示になる。現地が協力してくれる(I)。
- カットフルーツは→不分別なら不分別シールをはってください。組換えとわかるなら組換えのカットフルーツになる(I)。
- 加工品の種類は→ジャム、ピューレ、ジュース、シャーベット、乾燥果実。現地でシールを貼り、加工後は日本ではる(I)。
- 日本ではGMに抵抗を持つ人がいるが、アメリカ政府として対応策を考えているか→これは挑戦です。GMラベルがあったら買うでしょうか。マーケティングスキルの問題。パパイヤは初めてケース(G)。→ハワイで栽培し続けている素晴らしい食品で、ハワイの消費者は選んだ。安全だと日本政府に証明された。消費者はラベルとみると、1枚1枚、ハワイの生産者がはっていることを知り、ハワイの生産者がどんな気持ちで送りだしているかを知るだろう。受容してもらいたいと思う。消費者次第(W)。
- レインボーは生産者にメリットがあり、危機を救った。日本の消費者は生産者メリットに理解がない。消費者にわかりやすいメリットがあるといいのではないか→食料の安定供給は農家に利益があってこそ実現する。ハワイの消費者はウイルス被害でパパイヤがなくなり、よくない品質で高価だったことを経験している。ウイルスの前は2品種だったが、今はGMも非GMも入れて4-5種類ある。美しくおいしく健康によい。そして安い(G)。
- 何十万人も日本人観光客がハワイに行って本場のパパイヤを食べている事実もある。輸入されると航空運賃の分高くなるのが課題ではないか(中野)
- 審査中のGM作物はあるか→アメリカで安全性が確認されていても日本を含む相手国の承認が下りてからでないと、栽培しないルールがあり、これは紳士協定。日本政府が承認するまで、アメリカの農家は新しい品種の栽培はしない。こうして、市場の混乱を防ぐ。
- RNA干渉による抑制効果はあるか→抵抗性はRNA干渉で抑制される。
- レインボーの種子はとれるのか→採種して栽培できる。
- レインボーパパイヤをどう思うか→GMパパイヤのよいストーリーを理解して買ってほしい。
- 日本では非GMばかりが流通している、ダイレクトなメリットは価格だが、レインボーを安くできないか→ハワイのパパイヤとフィリピンだとフィリピンは人件費が高い。私はレインボーを高価な高級品にしたいとは思っていない。日本でハワイのパパイヤは高級品だが、安くして買えるようになってほしい。台湾産、フィリピン産の中でハワイの品質は絶対にいいと思う。品質の割りに値段が安いことをわかってもらいたい。でも、これはハワイで考えるべきこと(G)→アメリカでは価格は組換えと非組換えは同じ価格 日本ではアメリカのパパイヤは15%しか入っていないので、ハワイのパパイヤの流通が増えれば、価格が下がるかもしれない。利用可能性が広がると安くできるのではないか(W)
- 日本でおいしいレインボーを多くの人に食べてもらえるようにしたい。どんなシールになるのか→何も決まっていない。どんなものがいいと思うか。第一弾にかかっている。大事な挑戦 どうやったら成功するか。ウイルスから救ったレインボーパパイヤで、小規模生産者が作っているパパイヤだからこそ、うまく受容してもらいたい。人との関係、消費者の考えが重要。
- GMだからこそできたことを堂々と言おう!
- GMのメリットが打ち出せるといい。VTR、ツアー等を通じてハワイの生産者と消費者のギャップを埋めるのが一案。日本政府が承認したというシールを貼ることは可能か→景品表示法にふれないように事実に即して書くことはありえる(I)。
- ゴンザルベス夫人であるキャロルさんによる、生産者の聞きとりは、新しい技術の発展に重要だったと思う→ボランティアとして手伝い、種を本当に使いたいかどうかに調べた。どこに生産者がいるか見つけなくてはならなかった。しかし、苦労して生産者をみつけて調査をしたところ、本当に種をほしがっていたことがわかった。こういうストーリーもシールの中に凝縮させたい(キャロル夫人)。
- 12月1日にパパイヤを買って、種をまいたら違反ですか→カルタヘナ法 環境放出は認可されているので大丈夫だと思う。都道府県ごとの条例がある。ハワイパパイヤ生産者協会の所有物 ハワイの生産者には種は供与されたが、協会以外の人には供与されていないはず。モンサントなどの企業と種々のライセンスについて交渉した。米国外では 生産者協会が所有権を持っていて、日本で誰かが生産したいときは生産者協会に申し出てもらいたい。しかし、レインボーパパイヤはハワイのリングスポットウイルスにしか抵抗性がないので、沖縄のRSVには耐性がない(G)。
- 日本政府は意図しないで環境に広がって害を及ぼすかという懸念をもっているが→日本の気候では生育しないだろう。沖縄でも沖縄のウイルスにやられるかもしれない(G)。