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TTCバイオカフェレポート「チョコレートの秘密〜ポリフェノールの科学」

 2009年11月27日(金)、東京テクニカルカレッジ(TTC)と共催でバイオカフェを開きました。TTCとは,ヒトゲノムを用いる実験講座「私たちのDNA」で、一緒に活動してきましたが、東中野への校舎移転にともない、初めて同校でご一緒にバイオカフェを開くことになりました。お話は明治製菓 梶睦さんによる「チョコレートの秘密〜ポリフェノールの科学」。初めにMIWAKOさんと栗林緒さんによるフルート、アルトサックスとギターの演奏があり、クリスマスメドレー、MIWAKOさんのオリジナルが奏でられました。

クリスマスツリーの前でMIWAKOさんと
栗林さんの演奏
梶さんのお話
杉本校長先生のご挨拶 会場風景1


お話の主な内容

チョコレートと日本人の出会い
「チョコレートを運ぶ娘」という有名な名画をみると、カップのチョコレートと水を運んでいることがわかる。チョコレートには4000年の歴史があるが、長い間液体の飲料だった。原産はメソアメリカ(メキシコのあたり)で、カカオの文字が残る記録がある。アステカの皇帝モテクスマはチョコレート皇帝と呼ばれるほど、毎日多量に飲んでいた。当時は滋養強壮の薬のような使われ方だった。
スペインのコルテスがアステカ帝国を1521年に滅ぼし、チョコレートはスペインに運ばれ、やがて砂糖を加えて飲みやすくなった。スペインからフランスにお妃がお嫁入りするとき、チョコレートコックを伴ったという記録もある。
1828年、オランダ人のヴァンホーテンがココア製造法を発明し、粉末になった。
日本では、1797年、長崎の出島の遊女の貰いものリストにチョコラーテが出ている。
それ以前に、伊達政宗の使節としてローマやメキシコを訪れた支倉常長は、チョコレートのもてなしを受けた可能性が高い。しかし、帰国すると日本ではキリスト教が禁じられており、支倉は日記などを処分してしまった。チョコレートに関する資料があったかもしれない
1873年、岩倉具視はリヨンのチョコレート工場でチョコを食べたという記述がある。
1878年 米津凮月堂からのれん分けした店がチョコレートの新聞広告を出している。
1899年、森永商店(現森永製菓)がチョコ製造を初めて開始。森永太一郎はクリスチャンで、アメリカで菓子修行をしてきた人。一方、明治製菓のチョコレート誕生は1926年。

チョコレートができるまで
カカオの実(カカオポッド)は幹に直接なり、カカオポッドには20-30粒の豆が入っている。南北緯20度以内の高温多湿の地域に生える。
日本にカカオを輸出しているのはガーナが中心だが、世界の生産は、コートジボアールが第1位、ガーナは2位。この2国で世界の生産の6割の占める。ブラジルやインドネシアも生産している。
エクアドルやベネズエラのカカオはフレーバービーンズといって苦かったり、香りが強かったりする特徴がある。ガーナ豆とブレンドして用いられることが多い。
チョコレート製造では、まず、カカオ豆の選別と皮をむき、粉砕してブレンド(シングルビーンのときはブレンドしない)する。
カカオ豆は55%が油。どろどろのものがカカオマス。カカオ70%という表示は、カカオ分の量で、これに砂糖を加えさらに20-25ミクロンの粒子まで小さくする。カカオマスに含まれるココアバターの融点は約28度、カカオ豆から搾り取る。
コンチェとは、リンツ社創立者の発明で、微粒子化したものを練り上げる装置で、この過程でチョコレートの香りが出てくる。
調温(テンパリング)は、融点に注意しながら温度調節をすることで、手作りチョコはここで失敗することが多い。
ココアはココアプレスで、円盤状のチョコレートを圧縮して粉末にしてつくる。

チョコレートの栄養特徴
カカオマスの成分を見ると、ガーナ産もエクアドル産も油が5割以上で水分は1%以下。水が少ないので保存がきく。賞味期限は1〜1年半だが、保存がきき保存食に使われる。
成分表示を見てみると、多く含まれるのは食物繊維で、中でも不溶性のリグニンが多い。
カルシウムとマグネシウム比率は、ミルクチョコレートでは2:1で理想的な比率だといえる。また、ポリフェノールの含有率がとても高い。特にエピカテキンなど高分子のポリフェノールが多い。しかし、チョコやココアのカフェインはコーヒーの5分の1位。

チョコレートの機能
(1) 抗酸化作用
免疫とアレルギーの調節作用がある。アレルギーが起こると活性酸素が過剰にできるといわれている。抗酸化作用が動物やヒトの試験で確認されている。発がん抑制を試験管の実験で調べているところだが、ラットではがんの初期に効果があるらしい。
(2) 抗う蝕作用
昔、ヒトに甘いものを5年間与えて虫歯になりやすい食品を見つける実験を行ったことがある。その中でチョコレートを食べた人は虫歯が進まなかったという記録がある。タフィー、キャンディの方が虫歯を起こすようだ。
チョコレートには虫歯菌(ミュータンス菌やソブリヌス菌)の抑制効果がある。チョコレートの砂糖が虫歯を進め、カカオ成分が抑える関係と考えられる。
(3) 抗ストレス作用
ネズミを水に入れるストレスを与えたとき、チョコレートを与えたネズミの方が、溺れずに泳ぐなど頑張れることがわかっている。
また胃潰瘍や胃がんの原因菌とされるピロリ菌や最近感染予防にも効果があるというデータが集まりつつある。
(4) 抗酸化作用
欧州は心臓病が多いが、フレンチパラドックスといってフランスだけが心臓病の比率が少ない。ワインに動脈硬化や心臓病を抑える効果があるためではないかという仮説がある。同じように、オランダでは、ポリフェノールは心臓病や動脈硬化に抑制的に働くという疫学的な報告がある。ならば、チョコレートのポリフェノールにも抗酸化作用があるのではないか。ワイン1杯のポリフェノール、1枚の板チョコのポリフェノールを比べると、平均的にはチョコレートのポリフェノールは2-3倍多い。お茶のポリフェノールはワインの半分くらい。
ポリフェノール量だけに注目すると、チョコレートが断然、多い。

コレステロールに対して
コレステロールにはLDL(悪玉で蓄積型)とHDL(善玉)がある。LDLが酸化すると免疫機能が働き、これを退治しようとして、白血球のマクロファージ(貪食細胞)が酸化LDLを食べる。食べきれなくなるとマクロファージは泡沫細胞という死骸のようなものになって血管壁を押し上げ、血流が悪くなる。これが初期の動脈硬化。そこで、抗酸化作用のあるものを摂取するといい。
ビタミンE、ポリフェノールなどは抗酸化作用が強く、酸化LDLの発生を抑え、酸化を遅らせる働きがある。
3日で1枚の板チョコを食べるくらいがいいのではないか。チョコレートから摂取した1日80カロリー分を他の食べ物で減らし気味にすればいいでしょう。


会場風景2

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • カカオマス100g中に3g程度のポリフェノールが含まれるということだったが、ポリフェノールの効果は期待できるのか→以前はチョコレートにとっては渋みのあるポリフェノールは、邪魔な苦味だった。今になってポリフェノールが注目された。99%カカオマスのチョコレートは苦くて食べにくい。ポリフェノールを多くすると味が落ちる。製造工程で重合度を増やす方法も考えられるが、消化が悪くなったり、ミネラルを一緒に排泄しまったりする。今後の課題だと思います。
    • チョコは食べると太りますよね→チョコレートの脂肪酸は、主にステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸。ステアリン酸、パルミチン酸は消化吸収が悪く、カロリー表示の7-8割しか吸収されない。
    • チョコレートはにきびの原因とか、鼻血が出るとか言われますが→ニキビとチョコレートは関係ないというデータがアメリカで出されている。海外の研究者に尋ねたが、鼻血も日本だけの伝説らしい。終戦時にチョコレートの価格が高かったので、買わない言い訳だったのではないだろうか。
    • 成分の中で健康によくないものは→砂糖が、糖尿病の人によくないので、人工甘味料の利用も考えられている。ロッテが砂糖ゼロの商品を出しており、明治製菓もかつて作ったが、余り売れなかった。
    • 食べ合わせでポリフェノール効果を高めることはできるか→ポリフェノールは100数十ミリグラム程度とればいいので、チョコ3分の1枚でポリフェノールの一日量は十分。ワイン1杯でも十分のはず
    • テオブロミンという成分がカカオに含まれていると思うが→テオブロミンはキサンチン化合物で強心作用がある。かつて、日本軍飛行機操縦士が急降下で意識を失わないようにテオブロミンを使ったことがあった。テオブロミンはカカオマスの中の1.3%位。
    • ストレスの緩和作用もあるらしい。テオブロミンのデータは最近、とられていないが、今後研究するテーマだと思う。
    • ポリフェノール以外に体によい成分はあるか→食物繊維がチョコレート1枚で2グラムとれる。食物繊維の1日量の目安は20グラム。バナナ1本は1グラム、サツマイモは1本で2グラムくらい。女性は腸の構造もあって男性より便秘しやすい。ココアにも食物繊維が多いので、便秘予防にも役立つと思う。
    • 心理学的に女性の方が特定の食べ物にはまりやすい。その第1位がチョコレート。しかし、チョコレートは食べたいが、罪悪感(太るのではないか、節制できない人だと思われないか)も持つという研究報告がある。
    • ホワイトチョコが好きだがポリフェノールは含まれないんですよね→ホワイトチョコにはポリフェノールはゼロ。カカオマスを使わずココアバター、砂糖、ミルクで作る。
    • 明治製菓のロゴが変わった。前のロゴはミルクをイメージさせ、音符の形をしていて好きだったので、ロゴが変わってから買っていない。ロゴ変更のいきさつを教えてください→明治製菓と明治乳業が一緒になって、両社で協議してこのロゴになった。すべて小文字を使い、家族でほんのりとした優しさをイメージしている。