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2009年度市民参加型除草体験会が開かれました

2009年7月11日(土)、(独)農業生物資源研究所主催、市民参加型展示ほ場にて、高校生を含む市民25名が市民参加型除草体験に参加しました。希望者は、除草体験の後、栽培された遺伝子組換え害虫抵抗性スイートコーン(以下、遺伝子組換えトウモロコシ)を試食しました

第1部 「除草体験」

参加者は、遺伝子組換え作物の展示ほ場を見学したり、除草されていない非組換えダイズの畑の除草を行いました。3回目にあたる今年度は最も雑草が繁茂し、大人の肩ほどもあるシロザを中心とした雑草が生え、根から引き抜くと畑に穴があいてしまい、雑草と日照を争ってひょろひょろになったダイズがなかば倒れてしまいました。また雑草が繁茂している畑の中央部のダイズには、葉が黄変してしまっているものも多く目に付きました。
遺伝子組換えトウモロコシと非組換えトウモロコシを観察し、それぞれを収穫しました。トウモロコシの雄花は先端にあります。遺伝子組換えトウモロコシの花粉が飛散して周囲の非組換えトウモロコシと交雑を起さないように、遺伝子組換えトウモロコシの雄花は切り取られ(除雄)、草丈が低くなっていました。非組換えトウモロコシには、虫の入った穴の周囲に茶色の粉状の糞がついていて、その先の部分が枯れたり、折れたりしていました。このような状況から中に虫が入っていることがわかりました。

長靴、麦わら帽子で装備していざ、ダイズ畑へ 遺伝子組換え作物ほ場の看板
いよいよ草取りが始まりました だんだん土の色が見えてきました
雑草に支えられていたダイズはひょろひょろ とった雑草の重さを記録する
向かって右は除雄した遺伝子組換えトウモロコシ、
左隣は虫食いのある非組換えトウモロコシ
試食用の遺伝子組換えトウモロコシの収穫


第2部 「3つの実験と観察」

昼食後、大島正弘さん(作物研究所)よりDNAや遺伝子組換え技術についてのお話や、土門英司さん(遺伝子組換え研究推進室)より遺伝子組換え植物の扱いについて定めた法律(遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律)についてのお話をうかがいました。その後、部屋をP1施設(遺伝子組換え生物を扱う部屋として閉鎖、実験の種類を掲示するなどのルールに従う)とし、部屋の中で緑色に光る大腸菌などを観察しました。この他にDNA抽出、畑からもってきた雑草の説明をうかがいました。


大島正弘さんのお話 雑草について松尾和人さんの説明をきく
ブロッコリーからDNAを取り出す 遺伝子を組み換えた蚕が作った光る生糸

(1) 雑草の説明
松尾和人さん(農業環境技術研究所)より、畑からとってきた雑草について名前や特徴を教えていただきました。一般にダイズより背の高い草(ハルタデ、シロザ)はダイズと日照と栄養を奪い合います。ダイズより瀬の低い草(メヒシバ、スベリヒユ、ザクロソウ)は水分と栄養をダイズと奪いあいます。
ダイズの根には根粒がついていました。根粒菌が植物体に入り、粒(根粒)をつくって空気中の窒素を取り込み、ダイズに提供します。一方、ダイズは光合成で生産した栄養分を根粒菌に提供し、お互い助け合います(共生と言います)。初めてマメ類の栽培する畑には液体や粉末の根粒菌を摂取し、マメ類が窒素栄養を取り込めるようにします。新しい根粒菌の研究によると、窒素肥料が豊かに与えられると、ダイズは根粒菌に餌である栄養分を与えることやめて、土中の窒素を直接取り込むなどダイズが戦略的であることがわかってきているそうです。

(2) 遺伝子組換え技術で光るようになった大腸菌や蚕
光る大腸菌と光る繭に一緒に紫外線を当てると、同じ緑色に光りました。このことからも、微生物と蚕に導入されたDNAの仕組みが同じルールになっていることがわかります。

(3) DNAの抽出
ブロッコリーの花芽からのDNAを抽出しました。台所洗剤と食塩から作ったDNA取り出し液とエタノールを使って、白くモヤモヤとしたDNAが粗抽出されました。

第3部「あなたは遺伝子組換え作物についてどう考えますか」

(1)除草の作業時間の計算
今日の作業時間から、日本人が1年で消費するダイズ(8.3Kg 味噌を除く)を得るためには、除草作業時間だけで、どれだけ必要になるかを計算しました。そこで、12時間以上かけなくてはならないことがわかりました。この他に暑さ、寒さ、害虫による収穫量の減少を考えると、ダイズを自給することがどんなに大変なことかわかります。
田部井豊さんから、遺伝子組換え作物の安全性(食品として、環境への影響評価)の調べ方、遺伝子組換え食品の表示ルール、IPハンドリング(分別流通管理)についてお話を聞きました。

(2)遺伝子組換えスイートコーンの試食
除草体験の後に収穫した遺伝子組換えトウモロコシはスイートコーンという甘い食用の品種で、電子レンジで加熱後、2〜3cmにカットされて、希望者は試食できるように準備されました。当日行ったアンケート調査の結果からは、参加者26名のうち、23名が組換えスイートコーンを試食していました。試食した参加者のほとんどは「めったにない機会なので食べてみたかったから食べた」という意見でした。なお、試食しなかった人の理由は、「トウモロコシが好きでないから」、「食欲がなかったから」、「安全性の証明がはっきりわからなかったから」、というもので、不安という理由で食べなかった人は一人だけでした。筆者も試食しましたが、甘くて粒もきれいでした。


電子レンジで加熱した遺伝子組換えトウモロコシ 会場風景

質疑応答の主な内容
  • は参加者、→は講師の発言
  • 田部井豊さんと佐藤里絵さん(遺伝子組換え研究推進室)の進行により、質疑応答や話し合いが行われました。ダイズに関する質問に対しては、専門家の羽鹿牧太さん(作物研究所)が回答しました。


    • 遺伝子組換え作物ではいくつくらいの遺伝子をいれられますか →数多く入れる研究もありますが、今のところ多くの場合で6個ぐらい。
    • 遺伝子組換え作物の種子は日本で買えますか →いいえ
    • 除草体験を経験されて研究者はどう思っていますか →今年で3回目の除草体験、説明会で、研究所で研究者と出会えてよかったという声が多い。除草体験は遺伝子組換え農作物や農業技術を考えるきっかけになったという意見もあり、企画して良かったと思っている。
    • 遺伝子組換え技術で失敗だった作物はどう処理されるのか →開発途中で公にされない失敗は沢山ある。遺伝子がうまく入らなかった作物などが多いが、不活化して処分する。組み換えて生きているイネや生きている花粉は新しい個体を再生したり交雑したりする可能性があるので組換え体として扱うが、組換えイネの葉の断片から新たな個体は再生しないので、組換え体ではない。ただし、花粉などがついて外に漏れないように、基本的には葉などもすべて圧力なべのようなもので処分する。
      雑草の名前や自分の知識をご紹介して農業を知ってもらえるのは嬉しいと思う。自分で当然だと思ったことの説明が必要であることを質問に触れて学ぶ(松尾)。 
      →学会よりも一般市民の方にどう説明するとわかっていただけるのか、自分も勉強している。除草してみて、改めて大変だと思う。わかりやすい説明ができるようになるといい(大島)。 →研究対象として眺めているダイズを、実物で見てもらえてよかった。講義は忘れてもご一緒に体験できたことは忘れないと思うし、自分の研究に活かされると思う(羽鹿)。
    • こんなに遺伝子組換え作物が輸入されているのに、どうして、日本では栽培しないだろうか →組換え体を拒否しても食べるに困らない。飼料用トウモロコシを作る土壌がない。種子の市場がない。ヨーロッパでは1998年から2003年にかけてモラトリアム中にも研究を進めるなどの戦略があった。日本は戦略が定まらなかったなどの理由が考えられる。
    • 品種改良はどこまでも続くのか →ダイズの育種は永遠に続く。100粒20グラムくらいだが、100粒で100グラム、さらにもっと大きくて高く売れるダイズがほしいと思う。温室のような一定の気候だと最大収穫量は決まるかもしれないが、実際の環境は変化するので、環境変化に強く雑草に負けない、生育の早い品種も必要(羽鹿)。
    • 組換え技術は人口増加や環境対策など対してどのように役立つのか →世界的には、乾燥が問題になっている。農耕地が砂漠化したり雨が少なかったりしている。収量を増やす(増えてはいるが、2-3倍は今後の大きな目標)。窒素肥料の有効性を高めるような作物が必要。リン(農業に大事)が枯渇してきており、ナウル共和国のリンは掘りつくされ、中国はリンの輸出を止めようとしている。限りある資源を有効に使って次世代の農業に役立つ農業が今度の課題
    • アメリカでよく売れるのは理解が進んでいるのか →一部には反対運動もある。日本よりは農業が身近かなものだと認識されていると思う。これからは、自分で考えて話し合って自分で判断してほしいと思う。

    参加者の感想
    • 今日は勉強になった。科学館でも伝えていきたい。
    • 若いお母さんの栄養指導をしている。遺伝子組換えについて知り、これからは表示について考えたいと思った。
    • DNAについて知らなかったので、今日は知ることができてよかった。
    • 遺伝子組換え技術について知らなかったが、今日、説明を聞いて品種改良と同じだと思った。
    • 組換えと非組換えの実物を見られてよかった。質問として次の世代に組み換えた遺伝子は伝わるのか→はい 
    • 遺伝子組換えへの抵抗があったが、安全なのだと知った。
    • 除草体験は貴重だった。
    • 現実を直視するために植物の実物を見られてよかった。全国の植物園に遺伝子組換え植物を植えて見る、知る、触れる必要を感じた。
    • 今日の貴重な体験を周囲の人に伝えたい。
    • 遺伝子組換えの植物体をはじめてみた。世界の環境変化には、今までの作物は対応できないのではないか。組換え作物ができると食料確保が安心できるのではないか。
    • 有機栽培は安全だとする声がよく聞こえてくる。農薬や組換えはよくないという雰囲気は偏っていると思う。こういうイベントをもっと行い、素人にもわかるように研究者が説明してほしい。なぜ、遺伝子組換え作物が求められるのかを話してほしい。
    • 高校で教えているが「組換えを食べていない」という子ども多い。正しい新しい情報を教師は伝える責任があるが、展望について知りたい→危険だと感じている人の意見も知って考えていきたい。