10月15日(金)西ノ宮市民会館において、標記フォーラムを近畿バイオインダストリー振興会議と共催で開き、120名の参加を得ました。
私たちは昨年、西宮で始めて学生をパネリストにしたフォーラムを開催し、それ以後、理科教育、医療を題材とした学生フォーラムも開きました。今年は、遺伝子組換え作物に関する情報を生産者、安全性審査に関わる立場の方から、情報提供していただくことで、昨年より、さらに幅広い議論を会場を交えて展開することができました。コーディネーターの閉会の挨拶のように、素人の疑問の発掘という課題を参加者全員の協力のお陰で、できたと思っています。フォーラムの主な内容を以下に報告します。
詳細な報告書(基調講演レジュメ、アンケート集計結果、全部の自由記載を収録)
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開始前の打ち合わせ |
神戸女子大学山本勇先生の開会の挨拶 |
基調講演1 「生産者の立場より」 バイオ作物懇話会 長友勝利 |
バイオ作物懇話会の紹介
コメの減反政策の前後から強会をしてきた。組換え農作物は農業にとってすばらしい技術だと考え、1年半、賛成、反対の人たちにヒヤリングして勉強を続けていた。会員は700名。
農の重要性と日本の農業の衰退
戦後の復興が早かったのには、米や麦を供出し、農家が麦や芋を食べて、食料増産に努めてきた背景がある。現在、日本の自給率は4割。日本の農業は後継者不足、65歳以上の就農者が7割。安い輸入品との競争で日本の農業は衰退している。生産者も家族があり、農家といえども、採算のあわないことはできない。子や孫は農業を選ばない。
遺伝子組換え技術とこれからの日本の農業について
農薬の使用量が少なく、コストが低い遺伝子組換え農産物は日本の農業に必須。8月末に米国の視察をし、メリットがあるからこそ、拡大するという米国農家の声を聴いた。早急に議論をし、この技術も取り込んでいきたい。農業は一度やめたら、再び、始めることはできない職業のひとつ。同時に消費者の理解と信頼なしに農業の発展はない。
基調講演2 「バイオと農業」 在京米国大使館農務部 浜本哲郎 |
除草剤耐性遺伝子組換え農作物の作り方
同じ酵素でも植物と微生物では、その作り方を示すDNAの配列が、進化の過程で少し異なっている。そのわずかな配列の違いを認識して、片方には作用するがもう一方は認識しないので作用しない薬剤(たとえば除草剤)が存在する。除草剤グリフォサートは、植物のある酵素を認識して、その働きを止め、その植物を枯らせてしまう。ところが、同じ植物体に微生物のA酵素をつくる遺伝子を入れると、微生物と植物のA酵素の違いのためにグリフォーサートが認識しないので、枯れない。これが除草剤耐性遺伝子組換え農作物。
害虫抵抗性遺伝子組換え農作物の作り方
長く生物農薬として使われているBtというたんぱく質を作る遺伝子を植物体に入れ、それを害虫が食べると、害虫の受容体にBtがはまって毒性を示す。しかし、ヒトが食べても、消化器官の中で分解され毒性は示さない。
世界の遺伝子組換え農作物の状況
ワタ、トウモロコシ、ダイズ、パパイヤ、ナタネなどが米国、アルゼンチン、カナダ、ブラジル、(インド、ルーマニア、ホンジュラス、メキシコ、オーストラリア)などで作られている。組換えは作付け面積は8年間で、4倍以上に伸び、米国でもその割合で増えている。
米国における安全性の評価
・FDA(食品医薬品局):食品安全性、飼料安全性
・APHIS(農務省動植物検査局):環境安全性、植物としての安全性(植物病原性、雑草化)
・EPA(環境保護庁):生物農薬を生産する場合の安全性
輸出・輸入国双方での安全性確認は、各国で独自に行われているが、安全性審査の基準は基本的に世界共通。日本の場合は食品と飼料としての安全性は食品安全委員会で評価し、環境への安全性は農林水産省が評価する。
バイオテクノロジー農作物の安全性評価の考え方
遺伝子組換え食品の安全性は、現存の食品と比較して問題がないかを評価するしかなく、消化不良を起こす物質やアレルギーを起こさせる物質がないか、これらの有害物質の量が重複していないかを調べる。
危険でも、リスクと呼ばれるものは、ゼロにはできないもので、許容できる範囲がどうかを考える。リスクがわかれば安心する。リスクを埋めるための情報を受け止めたと自覚できるときに私たちは安心できる。理解が進むことによって、疑問がはっきりしてくることが大事。
議論をしていくことの大切さ
私自身は、反対している人がいるからこそ、全体として前に進むことができるので、健全な反対意見があることはよいことだと思っている。ただ、畑をつぶしたり、不買運動のような反対の方法は議論を進めないので困ると思う。
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学生パネリストのみなさん |
コーディネーターと基調講演講師 |
学生パネリスト |
神戸学院大学 栄養学部 4回生 | 岩尾 結 さん |
神戸女学院大学 人間科学部 3回生 | 落 理絵子 さん |
神戸女子大学 家政学部管理栄養士養成課程 4回生 | 数田由美子 さん |
武庫川女子大学 生活環境部 4回生 | 池田紀美子 さん |
武庫川女子大学 生活環境部 2回生 | 中井 渚 さん |
武庫川女子大学 生活環境部 2回生 | 中村かおり さん |
コーディネーター |
生活協同組合コープこうべ理事・消費生活アドバイザー | 伊藤 潤子さん |
専門家パネル |
バイオ作物懇話会 | 長友勝利さん |
在京米国大使館農務部 | 浜本哲郎さん |
コーディネーターから
洗剤に含まれる酵素、医薬品などでは遺伝子組換え技術なしでは暮らせない。遺伝子組換え植物では「賛成」、反対」、「わからない」という人がいるが、遺伝子組換え食品と無関係ではやっていけない。事務局の意図は素人の認識を発掘するのが今日の目的だと私は思っている。それを会場と交えてやっていきたい。
学生パネリストの遺伝子組換え食品の印象
○遺伝子組換え不使用の表示を見ると安心。遺伝子組換えで栄養価が減るのではないか。
○自然の食材を人為的に操作することがいいかどうかがわからない。栄養価の変化に興味を持っている。市民は安全性、危険性の知識を知って選択できるようになるのがよい。
○組換えの表示を私も自分の周囲も気にしていないように思う。不使用表示があると、組換えが悪いものなのではないかととらえられてしまう。そもそも、企業が悪いものだととらえているのではないか、と感じることもある。
○ビフィズス菌の組み換えについて勉強中。組み換え技術に興味は持っていたが、組換えに否定的なイメージがあった。今回、この技術は必要だと思うようになった。実家は農家。組換えで農業がしやすい環境になればコスト制限、省労力になり後継者も増えると思う。
○よりおいしいもの、生産者にもよいものを提供してくれると思うから、遺伝子組換え食品は「いいんじゃないか」と思っている。母や祖母は遺伝子、DNAを知らず怖い物だと思っている。
〜会場、パネリストからの質問に基調講演講師や会場の研究者が回答した〜
「交配は安全、人為的は不安」という意見に対して回答してくださいませんか。
○自然界でも突然変異や組換えが起こり、遺伝子が組み変わっている。人工的に遺伝子を入れても同じことだと私は思っている。(会場の研究者)
人が摂取した後に突然変異が起こったらどうなりますか。
○自然な放射線もあり、突然変異は常に起こっている。遺伝子組換え食品では成分変化をよく調べてあるが、自然界で起こった遺伝子の組換えには審査がない。(会場の研究者)
米国の消費者はどんな状況ですか。
○米国でも1992年に組換えを作るときに懸念があり、米国政府は安全性評価の仕方をいろいろな媒体を通じ、時間をかけて国民に伝えた。同時に公聴会、質疑応答会など市民からのフィードバックを得てきた。今、組換え食品の安全性に懸念を持つ人は余りいない。(浜本氏回答)
ここにいる人たちは、そんなに強い不安を持っていないようですが、不安を持っている人にどんな風に伝えたらいいでしょう。
○科学者が組換え技術を説明し、同時に第三者による安全性確認を伝えるといい。
組換えと品種改良がどう違うのか説明してください。
○たとえばトマトの原種は小さくて苦く、食用に適していなかったが、交配すなわち掛け合わせによって改良・選択してきた。しかしこれには時間がかかり、確率との勝負。その点、遺伝子組換えは改良する遺伝子DNAをしぼって組み換えることができる。
○遺伝子組換えでは、栄養成分をすべて調べている。甘いイチゴはビタミンCが減り、糖分が増えているはずだが、成分変化は調べていない。(ここで組換えダイズの栄養成分の変化がないこと。オレイン酸を多く含むように遺伝子を組み替えたダイズの栄養成分の比較を示した図が示された)。
米国のすばらしい点はどんなことか。日本で長友さんが目指しているのは何か。
○私の住む宮崎は雑草が多く、ダイズでは、体に危険だという除草剤を2−3回、殺虫剤を4回(最高7回したことがある)散布し栽培している。米国では除草剤散布1回で、雑草がほとんどなかった。作業コストや費用の削減をはっきり見てすばらしいと思った。日本でトウモロコシを栽培するときは、除草剤、殺虫剤を4回散布する。組換えにすれば、農薬コストだけでも4割削減。
消費者もコスト削減の恩恵を受けられますか。
○コストが下げられれば、大量生産ができる。本州で47ヘクタールのダイズを作っている農家が組換えを使えば夫婦で今の2倍に増やせるといっている。それを消費者に還元できるはず。(長友氏回答)
○ 農業は利益が少なく廃業の風潮。生産者メリットがあれば、それだけでよい。農家の儲けが増えれば補助金が減り、それは3年後に税金として消費者メリットなるはず。(会場の研究者)
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会場はいっぱい |
除草剤は1回まいただけでいいのですか。1回散布というのは、その分強い除草剤ですか。
○除草剤には、非選択性(すべての植物を枯らす)と選択性(広い葉、細い葉用など)の二種類があり、普通は選択性を何回も散布。非選択性のものは、強さでなく、特異性で枯らす。
○グリフォーサートは植物のアミノ酸の合成の仕組みを抑えて、植物を枯らす。人間は、残留農薬として食べても、アミノ酸合成のしくみを体内に持っていないので安全。(会場の研究者)
○ラウンドアップを1回散布すると雑草は1−2週間で全部枯れるが、その間に4−5葉だった大豆は通路が見えなくなる程成長するので、日が当たらず、雑草は生えない。(長友氏回答)
ビーナッツアレルギーを持つ人には、ピーナッツの遺伝子をいれた組換えでアレルギーが起こるのですか。そういうことの世界的チェックはどこでするのか。
○ブラジルナッツの栄養成分をダイズに入れようとして、アレルギーを起こす可能性が問題になったことがある。そういうタンパクは分子構造で厳しくチェックしている。古い育種で作ったものに対しては、アレルギーのテストができないので、やっていない。組換え食品の場合には、成分の検査で含まれるタンパク質がわかっているので、一般の食品よりもアレルギーの起こる可能性はよく調べられていると理解してほしい。世界的なチェックはCODEXで調べており、今、国際的なすべての食品の規格を作ろうとしている。(会場の研究者)
故郷の岡山は桃や葡萄が名産。他の地域でも安く栽培できると名産品はどうなるのでしょう。
○ 岡山の桃を保護するために、おいしい桃が他の地域で作れる可能性を抑えるのはいかがなものか。食品の競争が品質を高めるという面もあると思う。
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